春から秋にかけてはアウトドアに最適な季節。
山菜採り、キャンプ、ハイキング、登山、ゴルフ、農作業など、山や草むらで活動する機会が多くなると思います。
自然を満喫するにはとても良いことですが、思わぬ危険が潜んでいることも忘れてはいけません。
特に2013年日本で始めて感染が確認されたマダニ感染症「SFTS」は
- 致死率が30%
- 治療薬・抗ウィルス剤がまだ開発されていない
- 人から人・動物から人に感染する可能性もある
という大変恐ろしい病気です。
- 何が原因で発症するのか
- ウィルスと細菌のちがい
- どんな種類があるのか
など見ていきたいと思います。
もくじ
マダニの感染症の種類
日本ではマダニに咬まれて感染する病気として主に次のような種類が知られています。

日本予防医学協会資料を参考に作成
- 日本紅斑熱
- ライム病
- ダニ媒介性脳炎
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
の4種類です。
図のように、
病名 | おおきな特徴 |
日本紅斑熱 | ダニの刺し口がある・発疹が出現 |
ライム病 | 関節の痛みが伴いやすい |
つつが虫病 | ダニの刺し口がある・発疹が出現 |
の3つは「細菌」による感染症ですので、抗菌薬による治療が可能です。
一方
病名 | おおきな特徴 |
ダニ媒介性脳炎 | 全身麻痺・意識障害 |
SFTS | 発熱・全身の倦怠感・血液の成分の異常 |
は「ウイルス感染症」ですので特異的な治療はありません。
細菌とウィルスの違い
どちらも非常に小さいため顕微鏡でしか見ることが出来ない大きさですが、2つの大きな違いをみてみます。
細菌は細胞もった単細胞生物。糖などの栄養と水があり、適切な環境のもとでは、生きた細胞がなくても自分自身で増殖できます。
例外はありますが、抗生物質などで、細菌の細胞などを攻撃できる薬が有効です。
大きさは細菌よりもはるかに小さく、細菌のように栄養を摂取してエネルギーを生産するような生命活動は行うことができず、単独では生存できません。生きた細胞の中で増殖していきます。
一部インフルエンザウィルスのように有効な抗ウィルス剤の薬はありますが、基本的に抗生物質の効力はありません。
ダニ媒介感染症の近年患者数
このように、細菌よりもウィルスによる感染症は非常に危険であり、なかでも一番恐れられているのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」です。

引用:産経新聞-2017年7月24日配信分より-
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは
SFTS(Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus)は、
2011年中国で初めて発見された新しいウィルス感染症で、日本では
と呼ばれていて、マダニに咬まれることで感染し致死率がとても高い病気です。
SFTSの症状
SFTSは2013年に初めて日本で感染が報告されてから、毎年発症が確認されています。

引用:国立感染症研究所(自治体の報告数とは若干異なる場合があります)
2013年から現在までに280人もの患者が報告されていて、
致死率は6.3〜30%
と報告されています。
病原体 | SFTSウィルス |
潜伏期間 | 5日〜14日間 |
発症時期 | 5-8月が多いが、近年は11月まで症例あり |
発生場所 | 西日本を中心とした沖縄まで含む、全国21府県 |
感染経路 | 主に「フタトゲチマダニ・タカサゴキララマダニ」だが血液などの接触で人から人・動物から人への感染も報告がされている |
治療 | 現在有効な薬剤・治療薬・予防ワクチンがない |
SFTSの症状としては
- 発熱
- 消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)
- 頭痛
- 筋肉痛
- 意識障害や失語などの神経症状
などの他、名前のとおり
という特徴もあります。

引用:日本予防医学協会
70代を中心とした年齢層に感染者が集中しており、東日本や北日本では該当するウイルスを持ったマダニがいることは報告されていますが、その地域での感染者は今のところいません。
動物から人にも感染するSFTS
SFTSの感染経路は、基本的にはウイルスをもっているマダニにかまれて感染しますが、
2017年以降、動物を介して人間に感染して死亡する例が出てきました。
・SFTSに感染している野良猫に手を噛まれて人に感染
・SFTSに感染しているペットの世話をしていて、犬の唾液を介して人に感染
など実際に事例として起こっています。
- 動物の異変がみられるときは、すぐに動物病院へ連れて行くこと
- 動物の具合が悪い時の接触は極力避けて、触った後は手をよく洗う
などを心掛ける必要があります。
健康なペットからの感染は心配しなくていいとされていますが、一方でペットの具合が悪いときには注意が必要です。
ペットとの触れあいは本当に心を癒やしてくれますが、普段からペットの世話をする際には手洗いを習慣づけることも大切です。
日本紅斑熱も死亡例がある
マダニ感染症として、恐れられているのは[SFTS]だけではありません。
1984年に初めて患者が日本で報告され、2016年には最多の約280例あった
日本紅斑熱(にほんこうはんねつ)
もあります。
病原体 | 紅斑熱群リケッチアの細菌の一種「リケッチア・ジャポニカ」 |
潜伏期間 | 2日~8日 |
発症時期 | 近年3月~12月まで発生がみられる |
発生場所 | 西日本中心だが、近年新潟や栃木でも発生 |
感染経路 | キチマダニ・フタトゲチマダニ・ヤマトマダニ |
治療 | 抗菌薬の投与・予防ワクチン無し |
日本紅斑熱を媒介するダニは、日本全国に生息していて、年々発症例も広い範囲で確認されています。
日本紅斑熱の症状
発症すると発熱、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛などの全身症状があり、万が一対応が遅くなると全身の血管が固まり多機能不全に陥ってしまいます。
今まで、2004年~2008年までに4名の死亡例があります。
ライム病は世界的にも事例が多い
世界的に有名なマダニ感染症が「ライム病」です。
一昨年はカナダのロック歌手アヴリル・ラヴィーンさんが、ライム病で5か月間も寝たきりの状態だったことが判明。
5ヶ月はベッドで寝たきりだった。息もできないくらいで、話すことも動くこともできなかった。このまま死ぬんだと思っていたわ。虫でこんなことになるなんて!
とコメントしていて、20代の健康な若い方でも感染する怖い病気の一つだと再認識しました。
欧米では年間数万人のライム病患者が発生していて、社会的に大きな問題となっています。
病原体 | ライム病ボレリア |
潜伏期間 | 7~3週間以上 |
発症時期 | 2000年以降は1月~12月の一年中発症例あり |
発生場所 | 本州中部より北部、特に北海道や長野県ほか、標高800m以上の山岳地域 |
感染経路 | シュルツェマダニ ヤマトマダニ イクソデスマダニ |
治療 | 抗菌剤の投与・予防ワクチン無し |
ヒトからヒトへの感染、動物からの直接感染はないですが、日本では1986年に初のライム病患者が報告されて以来、現在までに数百人が感染しています。

【イクソデスマダニ】引用:日本皮膚科学会
左から、未吸血・吸血後幼虫、未吸血・吸血後若虫、未吸血・吸血後成虫
ライム病の症状
刺された場所を中心として特徴的な「紅斑」がみられます。

引用:ウィキペディア
症状としては、筋肉痛や関節痛、発熱から寒気、全身の倦怠感などインフルエンザに似ています。
さらに全身に病原菌がまわってしまうと、皮膚症状、心疾患などを患って最悪の場合は死に至ることがあります。
潜伏期間と診断時のポイント
図のように、病原体によって潜伏期間が異なります。

引用:日本予防医学協会
また、症状には個人差があるので
- ダニに刺されたことに気付かない
- 刺し口が見つからない
ということも多く見た目だけでの診断が困難です。
治療が遅れれば重症化や死亡する場合もありますので、おかしいと思ったら早めに医療機関に相談しましょう。
受診時には
- ○月○日、野山に行った
- ○月○日、畑で作業した
- あの時、ダニに刺されたかもしれない
など日付け、場所、発症前の行動(2週間程度)を伝えましょう。
刺されない予防が大切
マダニ感染症をいくつか紹介しました。
どの病気にも予防のワクチンがなく、SFTSのように、人から人・動物から人にも感染する可能性があるのに治療薬さえ無いものもあります。
どれも最悪の場合は死亡してしまうほど恐ろしい病気ですので、マダニに刺されないように予防を心がけるのが一番大切です。
山などに行くときは必ず
- 長そで長ズボン、しっかりとした靴を履く
- 草原などでは敷物を敷いて直接座らない
- 帰宅後はすぐにお風呂で洗い流す
- 洋服はすぐに洗濯を
などの対応が必要です。
しっかりと身の安全をまもりながら、アウトドアを楽しみましょう。